第一線のメジャーレーベルに当然いるべきバンドが、定位置に戻ってきた。全てを自主独立で作り上げた前作『狼煙-NOROSHI-』(08年)は、メンバー自身も「ファーストの勢いと同じ」と熱く語るバンド史上屈指の傑作だったが、限られた宣伝と流通の中で、それを求める全ての人のところへ届いたかどうか。山嵐は今何やってんの?なんて馬鹿なことを言われる前に、その唯一無二の存在価値を再び世に知らしめるチャンスが来たことが本当にうれしい。
そう、山嵐というバンドが第一線でバリバリ活躍していないと、本当に困るのだ。山嵐が96年の結成から今に至るまで、愚直なまでに追求し続けてきた本物のミクスチャーロックは、今や希少価値になろうとしている。90年代後半にシーンを共有した多くのバンドは活動ペースを落とし、個々の活動あるいはサイドビジネスにいそしみ、裏方に回った者もいる。確かに「ラップ」という手法は曲がりなりにも定着しているし、ファンクとメタル、ハードコアとダンスミュージックなどをうまくミックスした、ミクスチャー的な音を出す若いバンドも数はいる。が、何かが足りない。そこから生まれ、育ち、そこでしか生きられないという確かな実感、つまりストリートの匂いがしないのだ。
山嵐は、ストリートで生まれたバンドだ。仲間の結束を重視し、ライフスタイルと音楽を密着させ、リスナーとの距離感を感じさせない「俺たちの」バンドだ。結成当初はまだ10代だったはずで、『山嵐』(97年)『未体験ゾーン』(99年)という初期の2枚で、無防備な若さをむき出しにした激しく熱いミクスチャーロックの頂点を極める早熟派だった。その後はラップにメロディを取り入れたり、スローな曲や複雑なリズムに挑戦するなど、成熟の方向を目指す『シックスメン』(01年)『マウンテンロック』(02年)をリリース。ジャンルを超えた13組のアーティストとコラボレーションした『COLOR WATER MUSIC』(03年)と『アイテラス』(05年)を経て、J-POP畑の売れっ子プロデューサー・亀田誠治を迎えた『湘南未来絵図』(06年)で、一つの区切りを迎えることになる。彼ら自身、達成感を感じながらも、ずいぶん遠くまで来てしまったと思ったのだろう。事務所とレコード会社との契約が切れるタイミングで、自らのレーベル「豪直球」をベースにした完全に自由な活動を選択し、バンドは自らを見つめ、音楽を見つめ、傑作『狼煙-NOROSHI-』を作りあげた。取り戻した初期衝動に磨きあげたスキルを加え、現代的なダンスミュージックの要素も取り入れた強力な作品だ。
2007年に第一回が行われた「湘南音祭」のオーガナイズも、バンドのアイデンティティの確立に役立った。彼らの地元湘南、江ノ島で行われるこのロック・フェスには、Dragon Ash 、RIZE、10-FEET、湘南乃風、ELLEGARDENなど、山嵐をリスペクトする様々なアーティストが出演している。山嵐の音楽的な影響力の大きさと人間的なつながりを感じられる、今や地域密着型フェスの模範としてすっかり定着した。
そして話は冒頭に戻る。山嵐は約3年振りにメジャーレーベルからのリリースを選択し、2010年早々のアルバム・リリースに向けて現在レコーディングを進めている真っ最中だ。ついさっき、一足先に新曲「Ride with us」のデモ音源を耳にしたばかりだが、「これは一体なんだ」と一瞬茫然とした。重くメタリックなギターリフのあと、いきなり登場するビーチボーイズばりの極上スウィートなメロディ。あっと驚く間もなく登場するラップパートは有無を言わさず熱く、ファンキーなダンスミュージックのグルーヴに移り、2本の重低音ギターが絡み合う得意のパターンに持ち込み、再びメロディが現れ、とてつもない開放感がすべてを包み込んでエンディングへと向かう。こんなもの、かつて聴いたことがない。山嵐は、こんなところまで行ってしまっていたのか。
これからどんな曲が出てくるのかはわからない。音楽的に意表を突くアプローチもあるだろう。が、山嵐の本質がストリートに根ざしたミクスチャーロックである以上、そこにブレはない。石井芳明のしなやかなドラミングと、武史のベースと身体全体から弾き出されるグルーヴと、KAZIとYUYA OGAWAのスリルたっぷりのツインギターと、KOJIMAとSATOSHIの熱いヴォーカルの絡み合いがあれば、それが山嵐だ。それは音楽だけではなく、ライフスタイルから生まれる確かな実感に根付くものだ。今のシーンには山嵐が足りない。山嵐をもっと、高らかに鳴り響かせなければいけない。
(音楽ライター・宮本英夫)
